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茨城県常総市は、2015年9月の「関東・東北豪雨」で鬼怒川の大規模氾濫に見舞われました。そして市役所や医師会は、要援護者(*)の安否確認や安全確保に奔走することとなり、さまざまな課題が浮き彫りになりました。
本記事では、当時の様子や、その教訓を生かして導入された情報共有システムについて、常総市役所の皆様ならびに、茨城県きぬ医師会 いとう医院 伊藤院長にお話を伺いました。
(*) 高齢者や障害者などで、災害時に自力での避難行動や避難所等での生活が困難なために行政の支援を必要とされる方々のこと。
「関東・東北豪雨」当時の様子を教えて下さい
坂巻氏:私は当時、市庁舎などの施設管理業務を担当していましたが、水害発災時は避難所運営にあたっていました。市役所内に止められていた約200台の車および市庁舎1階が60cmほど水没。市の中心地である鬼怒川の東側では180cm水没した建物もありました。
秋葉氏:保健師でもある私は、避難所に配属されました。在宅医療で使われている酸素ボンベを持ってご家族に連れられて来られる方もいれば、必要な器具や薬が一瞬にして水に流され、ずぶ濡れになって身一つで命からがらやって来る方もいらっしゃいました。普段飲んでいる薬の名前がわからず、かかりつけ医や薬局のカルテも水没してしまい、あらゆる関係専門職に問い合わせするも、何日も確認ができないケースもありました。
市役所での被害状況はいかがでしたか
秋葉氏:はじめは、市の北側で氾濫が起き、市役所職員総出でその対応にあたっていました。そのうち市中心部にも水が流れ出して市庁舎の1階が水没。職員はみな出払っていましたので、パソコンや各種帳票類を退避できず水没させてしまい、情報復旧までに数日を要しました。
その間、要援護者はバラバラに避難していて連絡がつかなくなり、ケアマネジャーさんたちが市内の全ての避難所を足で回り地道に安否確認を行ってくださいました。環境の変化で困惑する認知症の方もいて、保健師たちは入院先やショートステイ先を探すなど現場は大混乱でした。最終的には県から応援を派遣していただけたのですが、市が保有する名簿が最新の情報になっていなかったなど、数多くの課題が浮き彫りになりました。命を守るためには、何重にも人手を介して確認するのではなく、関係者みなで情報の共有や更新ができたらいいなと痛感しました。
村上氏:私は介護保険の管理業務を担当していましたので、水害後は、介護保険料の減免や利用料助成申請の受付、避難者のショートステイの手続きなどに奔走していました。これを教訓にクラウド型の情報共有プラットフォームを導入しようという案が出た際には、リアルタイムでの更新および、要援護者の随時登録が可能なシステムを目指すべきと提言しました。
情報共有基盤としてIIJ電子@連絡帳サービスを選んだわけを教えて下さい
伊藤院長:鬼怒川の氾濫では、要援護者の情報が全て水に流され、数時間、医療連携が完全に途絶えてしまいました。当時、市内の病院のほとんどが電子カルテを導入済みでしたが、それらも水没しデータの復旧に1週間前後かかりました。やはりこういう時には災害に強いICTを活用し、リアルタイムで情報を連携できるプラットフォームが必要だと感じましたね。すでに県の医師会で、在宅介護の情報連携用に導入が推奨されていたIIJ電子@連絡帳には、災害時の情報連携機能も実装されていましたので、私が所属しております市の医師会(きぬ医師会)にて、災害用に応用する方針を決めました。
IIJ電子@連絡帳サービスのどのような点が、常総市様のニーズに合っていたのですか。
喜多:常総市の皆様は「紙はもちろん、情報を電子化しても市庁舎や病院内の端末型の管理では、水害が起これば機械もろとも流されてしまう。情報は災害に耐えうる安全な場所で保管し、かつデータの性質上、セキュアな環境に守られていなければ、地域を持続的に守ってはいけない」という強いメッセージをお持ちでした。そこで我々からは、クラウドサービスのご提案をしました。
IIJ電子@連絡帳サービスでは、平時、在宅療養者の支援に携わっている専門職(在宅専門医、介護ステーション員、ケアマネジャー、ヘルパー、薬剤師等)のみで、情報共有を行っています。しかし災害時には、必ずしもいつもの専門職が支援にあたれるとは限らないことが想定されます。そこで情報の開示範囲を「関係者限定」から「ユーザー全体」へ拡大する設計になっています。
2021年11月、常総市様にて災害対策訓練が行われました。どのような内容でしたか。
喜多:IIJ電子@連絡帳サービスでは、地域の専門職同士が同じ情報を確認し連携することが可能です。例えばGoogleマップ(*)に示された位置情報をもとに現地へ向かい、安否情報を書き込むことでそれらの情報が多くの専門職と共有できます。今回の災害対策訓練では、専門職の皆様に疑似的にオペレーションをしていただきました。
(*) IIJはGoogle社と利用契約を交わしています。
村上氏:1年前の訓練では、市役所職員がGoogleマップ上に要援護者3000人のピンを一斉に打ち込むテストをしたのですが、システム負荷が高まり動きが鈍くなることがわかり、その場でIIJへ改善要望を出させていただきました。そして今回の訓練では、我々だけでなく、地域で電子@連絡帳JOSOシステムを利用する方々にも参加いただき、多職種が協力して要援護者の安否確認ができるかテストしました。
今回の改善対応で手応えを感じており、今後は地域の消防や救急隊員の方々とも、この連絡帳で情報連携ができる仕組みをIIJと一緒に考えていく予定です。
将来の医療におけるICT連携をどう予想されていますか?
伊藤院長:10~20年後、高齢者は増加し続ける一方、病院のリソースは有限であり、皆が入院して医療を受けることは困難な時代になると言われています。そのため在宅医療を受ける方の人口が増加しますが、我々医師が全ての方のご自宅へ頻繁に出向くことは難しくなります。しかし将来、おそらく高齢者のほとんどが自宅にスマホ等のデバイスを持つ世の中になっていると思いますので、IIJ電子@連絡帳のようなシステムを使えば、距離的に離れていても医師と患者が双方向でやりとりすることが可能になり、劇的に医療の現場は変われるのではないかと考えています。
秋葉氏:将来的には他の自治体や遠い事業所ともIIJ電子@連絡帳で繋がることができれば、ケアプランの共有もできますね。さらに離れて暮らすご家族の自治体とも連絡帳で繋いで情報連携がされれば、災害時も迅速に連絡を取ることが可能になるかと思います。そしてこれからの若い世代は幼少期からの情報が連絡帳に蓄積されていくことで、人生のどこかのタイミングで保健師が関わる際、その方の連続的な情報を知ることができ、スムーズなケアが可能になると思います。
坂巻氏:災害時には電話が繋がりづらくなりますが、連絡帳があれば互いの位置や状況を確認できます。まだまだリアルタイムの位置情報については精度や技術面に課題が残るものの、訓練を繰り返す中で改善していき、いざ災害が起こった際にはしっかりと役立つものを、これから作っていただけると期待しております。
喜多:もともとは医療介護連携のためにスタートしたIIJ電子@連絡帳サービスですが、おかげ様で様々な分野の専門職が集まるソーシャルネットワークとなりつつあります。現在行政様とも活発に議論させていただきながら、新たな可能性を見出しておりますが、とりわけ近年の新型コロナ感染症拡大により、多くの方々がICTを使ってどう業務を変えていこうかと模索されている中で、我々IIJは、連絡帳が地域社会のプラットフォームとなり、その上で皆様が様々な業務連携を行っていけるような世界を作っていけたらと考えています。
多くの専門職が繋がることで彼らの業務負担を軽減し、彼らに支えられている市民の方々も幸せに暮らせる社会を作る一助となれるよう、これからも開発を続けていきたいと思います。
IIJ電子@連絡帳サービスは、医療・福祉・介護・行政など、地域のくらしを支える専門職をつなぐ「多職種連携プラットフォーム」です。 名古屋大学医学部附属病院 先端医療開発部 先端医療・臨床研究支援センターとIIJが共同研究でサービス化し提供しています。
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