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となりの情シス Special 情シス800人に聞いた『全国情シス実態調査』から読み解く情シスの課題と展望

IIJ.news Vol.183 August 2024

ここでは、2023年3月に開催されたトークセッション「情シス800人に聞いた『全国情シス実態調査』から読み解く情シスの課題と展望」の内容をダイジェスト版でお届けする。

株式会社アクティオホールディングス

取締役 Chief Information Officer

井原 宏尚 氏

医薬品メーカ、化学品メーカを経て、2017年にアクティオホールディングス入社。CIO、経営戦略部長、経営指標管理グループ長を兼務。自社、顧客、仕入先など全拠点を巻き込んだ5つの変革プロジェクトを展開中。

エクシオグループ株式会社

ソリューション事業本部
ICTエンジニアリング本部長 DX戦略部兼務

園 洋志 氏

長年、通信事業者でネットワークサービスの技術開発に従事。2019年にエクシオグループ入社。インフラ関連のSI事業を本業としながら、社内情報システムのインフラ部分の責任者も務めている。

株式会社 LIFULL テクノロジー本部

コーポレートエンジニアリングユニット ユニット長

籔田 綾一 氏

2010年にLIFULL入社。ポータルサイト「HOMEʼS」の開発や、Salesforce(Community Cloud)を用いたシステム構築・運用に従事。現在、情報システム部門の責任者として社内システムの刷新に取り組んでいる。

モデレーター

IIJ サービスプロダクト推進本部
コミュニケーションデザイン室
シニアプログラムマネジャー

向平 友治

本記事は2023年3月の講演内容をもとに再構成しています。
記事内のデータや組織名・役職などは当時のものです。

向平:
本日は、IIJが情報システム部門の現状を独自に調査した結果をご紹介しながら、普段感じている課題や今後の展望について、情シスのマネジメントをされているお三方とディスカッションしたいと思います。おもなテーマは「情シスはどんな課題を持っているのか?」「人材・人員不足とどう向き合っていくのか?」「情シスの皆さんの待遇をどう改善していくのか?」という3点です。

では、皆さんに自己紹介をお願いいたします。最初にアクティオホールディングスの井原さん――
井原:
アクティオホールディングスでCIOを務めている井原です。弊社は建設機械のレンタル業というニッチなマーケットで頑張っています(笑)。
向平:
次にエクシオグループの園さん――
園:
エクシオグループの園です。弊社は通信設備の建設事業を中心にSI事業も手がけています。私はSIer事業と社内のITインフラの責任者を兼務しています。
向平:
最後にLIFULLの籔田さん――
籔田:
LIFULLの籔田です。弊社は不動産ポータルサイト「HOMEʼS」を運営しています。今日は率直にいろいろお話ししたいと思います。

情シスの「人材」に関する課題意識

向平:
まずは「情シスはどんな課題を持っているのか?」と「人材・人員不足とどう向き合っていくのか?」について議論したいと思います。

IIJが独自に実施した「全国情シス実態調査2022」で「情シスの課題」について尋ねたところ、図1のような結果になりました。ご覧の通り、人材に関する課題が上位を占めています。IIJではこの調査を2021年から行なっていますが、2021年と2022年では順位が変わっていません。すぐに解決できる課題ではないということですね。

これとは別に「情シス人材に関するアンケート」も行なっています。「人材・人員が足りない」という課題に対し「人材・人員を確保するための施策を実施していますか?」と尋ねたところ、「特に行なっていない」がトップでした。この結果から、情シスが直接、採用活動を行なっているわけではないことが見てとれます(図2)。また「人材確保のために何を改善したいですか?」という問いに対しては「給与、待遇条件」がトップでした(図3)。情シスの方とお話すると、最近、エンジニアの給与が高騰していて、自社の給与テーブルに合わなくなっているというお話をよく聞きます。

「人が足りない」という課題に関連して「どこに工数を取られているのか」という質問には、予想通り「システムの運用・監視」がトップでした。また、人員が足りないなら、採用するなり、育てる必要がありますが、「部門内教育・トレーニング・スキルトランスファー」という回答は最下位でした(図4)。さらに「今後強化すべき/したいと考えてる点」を聞いてみると、「セキュリティ」に次ぐ第2位に「情シス内人事育成」が入っており、やはり人材育成は強化ポイントなんだなと感じました(図5)。

以上の結果をご覧になって、皆さん、いかがですか?
井原:
私の実感とはかなり違っていますが、どれもよく聞く話ではありますね。悩み自体は常にいくつもありますが、捉え方次第で目指す姿も道のりも変わってくるのではないでしょうか。

そもそもなぜ会社に情報システム部門があるのかと言うと、「ビジネスに価値を提供するため」です。その意味で「(価値提供)できる人がいない」という裏には「やりたいことがある」はずですから、課題感としては間違っていないと思います。一方、少し気になったのが「価値を提供できてない」といった回答が少ない点でして、(私のような)「課題の捉え方はあまりされていないのかな?」「それはなぜ?」と感じました。
向平:
会社で仕事をしている以上、収益にインパクトを与えることが最終目標になってきますが、そこに至る過程に情シスが絡めていないといった課題はあるのかもしれませんね。
園:
「予算が足りない」というのが下位に来ているのは少し意外でした。予算が増やせてもいい人材が採れないのか、予算自体を増やせないということなのか……。私は採用活動にも携わっていますが、優秀な人材って、なかなか採れないですよね。
向平:
やはり採用はむずかしいですか?
園:
SIer事業も兼務していると、最近、離職者が増えていて、ユーザ企業の情シス部門に行く人がけっこういます。ITベンダからユーザ企業への人材流出は実際に起きています。
向平:
籔田さん、いかがですか?
籔田:
今、情シスはとにかく忙しい(笑)。それって本当は喜ばしいことですが、放っておくと目の前の業務に追われて次の攻め手を出せなくなり、将来的に後手を引いてしまう。だから、まずは忙しさを解消したいのですが、人が足りない……。しかし、人・予算がほしいと言っているだけでは何も変わらないので、具体的にどうするのか? ということになるわけで――

図1 情報システム部門の課題

図2 人材、人員獲得のために実施している施策

図3 人材、人員獲得にあたり改善したい点

図4 直近一年間でもっとも時間を費やしている業務(全体)

図5 今後強化すべき、したいと考えている点

情シスに必要な“ビジネス目線”

籔田:
まず、社内で目立つことが大事だと考えています。情シスって目立たないんですよね。「いて当たり前」というか、社員との接点もそれほど多くないので。例えば、社内で表彰制度があるなら、それを目指してみるとか、社員が不満に思ってることを解消してあげてアピールするとか。
向平:
障害が起こった時だけ、情シスが怒られるって話はよく聞きます(笑)。普段ITをスムーズに使えているのは、裏で情シスが頑張って運用しているからなんですけど。
籔田:
基本的に怒られる部門なんですよ(笑)。だから「頑張っているのに」と言ってるだけでは、なかなか状況は改善されません。
井原:
おっしゃる通りです。情シスが「頑張ってる」と言っても、頑張ってることと「ビジネスの方向性は合っているのか」という点は再確認すべきだと思います。つまり「経営上、どの程度の価値をもたらしているのか?」という視点から成果を説明できるようにする。投資に見合ったリターンがあるなら、経営陣は投資します。逆に、投資しないのはなぜかと言うと、リターンが期待できないからです。だから「我々に任せてくれたら、リターンがありますよ!」と言えるようにすればいい。
籔田:
そうですね。「これができたら費用対効果が出ます!」と示すのが1番ですね。
園:
コロナ禍はIT部門にとってある意味チャンスでした。今までやっていた業務を変えなきゃいけなくなって、さまざまなリクエストが社内から出てきた。結果、リモートワークが安全にできるようになったり、以前は会社に行かないとできなかったことが自宅でもできるようになったりしました。
向平:
別の調査になりますが、2021年は社内で情シス部門の存在感が向上したと回答した企業が増加しました。2022年はリモートワークが浸透したこともあってか、やや下がりましたが(図6)。

図6 前年に比べ、御社内での情報システム部門の存在感は向上したと感じますか?

わかりやすい言葉で、正当にアピールする

向平:
今、視聴者からチャットで「経営者のITリテラシーが1番の課題?」というコメントをいただきました。井原さん、経営側としていかがですか?
井原:
情シスが経営側にわかる言葉で説明できればいいですよね。ビジネスのことを理解して、相応しい言葉に置き換えて説明してあげるみたいな。
向平:
別の視聴者から「“すごく便利になっていますよ!”とアピールしましょう」とコメントをいただきました。
井原:
ビジネスにどんな価値を提供しているのか、まずは主張しないことには始まらない。言わないことには相手は気づかないので、もし何も言ってないのなら、ちゃんとアピールしないとダメです。
向平:
“相手に届く言葉、理解できる言葉で”ってことですね。
井原:
リモートワークの推進でITが脚光を浴びましたが、我々は以前からリモートワーク用のサービスを提供していて、社員もそれを利用していました。間違いなく価値を提供しているのです! だから、そういったことを言い続けていれば、経営側は「もっと投資したら、もっと効果が出るかも」と思ってくれるかもしれないけど、何も言わなければ、当然、理解してもらえません。
向平:
そうですね。今、チャットで「情シスはITとビジネスの翻訳者たるべし」というコメントをいただきました。
井原:
ビジネスに携わっている以上、投資対効果をきちんと見せる! それに尽きると思います。
向平:
ただ、投資対効果って、説明しにくいのでは? 例えば、何も起こってない状況でセキュリティ投資を訴えてもなかなか理解してもらえず、インシデントが起こってから慌てて投資する……みたいな。
園:
毎年のようにマルウェア被害が出ているのだから、たいていの経営者は危機意識を感じていると思いますが。
井原:
「マルウェアが……」と(専門用語で)説明してもわかってもらえないかもしれないので、「ビジネスにこんなダメージがあったらどうします? 請求書を出せなくなったり……」といったふうに実例を挙げれば、危機感を持たない経営者はいないでしょう。「具体的にどんな損失が出るのか」という視点から話せば「それは困る」と思うはずです。そうでないと、経営側からすると「やってもやらなくても一緒」となってしまう。
向平:
自分たちの価値を正当にアピールして、必要な予算、リソースを確保していくということですね。

教育は組織体制とセットで

向平:
アウトソーシングが有効な一方で、内製化や人材育成も課題になっていますが、そのあたりはいかがですか?
園:
弊社は内製化を比較的進めているほうで、社内のPCキッティングなど定型化された業務はアウトソースしていますが、DCのネットワーク装置やサーバの保守業務などは内製しています。後者はアウトソースしても年間の故障頻度も少ないし、費用対効果の面でも割に合わないので、自分たちでやったほうがいい。若手の育成にもなりますし、エンジニアのやり甲斐につながる仕事は内製しています。
井原:
弊社はあまり内製化には注力しておらず、アウトソーシングを進めています。アウトソーシングの弊害はよく聞くので、チームリーダーは外注ベンダさんに任せて、その下にプロパーをつけて、社員と同じような立場で組織に組み込んでいます。このやり方にも一長一短ありますが、イメージ的には内製に近く、弊社が置かれた状況では1番パフォーマンスが上がるのでこうしています。

教育に関しては「こういうことができればいいね」という姿を描いたうえで、そのためには座学が1割、周りの人の仕事を見て学ぶのが2割、残りの7割は実際に自分でやって身に付ける――だいたいこんな割合ではないでしょうか。ただ、やはり仕事としてやってみないと、できるようにならないので、教育というよりは、組織の立て付けかな、と。それで「こういうことができるようになってほしい」という目線から、求められる専門性に応じてIT部門をチーム分けして、やりたい人にそこに入ってもらって、最初はできなくても、なるべく任せるようにしています。
籔田:
内製に関しては、社内の体制とセットで考えないと、担当者が辞めた時に業務が属人化していると困ったことになります。そうしたリスクがあるのなら、必ずしも内製化にこだわらなくてもいいのではないでしょうか。

無理して頑張って何とかしないほうがいい

向平:
では、最後のテーマ「待遇改善についてどう考えますか?」にいきましょう。「業務内容に満足していますか?」という質問には、4割以上が「満足」と答えていて、「どちらでもない」が4割弱、「不満・非常に不満」が約2割という割合になっています(図7)。また、この満足度を従業員数・規模別で見ると、実は大きな差はないという結果が出ています。給与条件に関しては、業務内容と比べると若干、満足度が下がっています。

最後に「漢字1文字で今年を表してください」というアンケート結果を見ますと、第1位に「忍」、第2位に「耐」、第3位に「忙」という字が選ばれました(図8)。ご苦労が多いのですね。

以上、業務内容の満足度、賃金など条件への満足度、仕事全体への印象などをご覧いただきました。皆さん、お感じになられたことなどありますか?
籔田:
待遇に満足することは、永遠にないでしょうね(笑)。待遇といっても、お金ではなく、忙しいとか、疲れるといったことで、そういった状況が続くと余裕がなくなってきます。これは改善しないといけないので、そのためには人を増やす必要がある。

ここで大事なのが「頑張らない」ことだと思います。無理をして何とかできてしまっても、結局、長続きしない。だから頑張り過ぎるのはあまり良くなくて、むしろできてしまうより、クリティカルな影響が出ない範囲で問題を起こすほうがまだいいくらいです(笑)。そうなると、経営側も改善の必要性を感じてくれるでしょうから。
園:
籔田さんのお話、参考になります。情シスには社内からさまざまな要望が来ますが、それら全てに応えるのは絶対無理です。なのでレギュレーションを決めて、本当にやりたいこと、やらなきゃいけないことを、要領よくやっていくようにしないと苦しくなります。社内の知り合いから頼まれて、断れないで困っている姿を見ることもあるので、組織的なレギュレーションは必要だと感じています。
井原:
今の話に付け加えると、マネジメントのやり方がかなり影響するのだと思います。ユーザからの改善要望や機能追加などのリクエストは果てしなく続くじゃないですか。情シスって、困っている社員を助けてあげたいと思う人の集まりなので、自分のスキルを発揮して何とかしてあげようというタイプが多い。それで頑張ってしまうのです。

弊社では、制度として複数のチェックポイントを設けて、「投資対効果」を第1に考えるようにしています。それにより、担当者の判断ではなく、会社の基準で「これはやる/やらない」と言えますから。
籔田:
例えば、ある業務を「忙しいからアウトソースしましょう」と外に出すと、コストが視覚化されます。コストを視覚化しないと、情シスの仕事はいつまで経っても評価されません。そうすることで経営側に説明する際にも役に立ちます。

「大変だ」「忙しい」「お金がない」ばかりでなく、誰が見てもわかるように工夫することが大事だと思います。そうした成果を積み重ねて、好循環につなげていけるよう心がけています。
向平:
なるほど! パネリストの皆さん、本日は有意義なお話をうかがうことができました。ありがとうございました。

図7 現在の業務内容に満足していますか?

図8 2022年・情報システム部門の今年1年を漢字1文字で表すと?


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