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人と空気とインターネット インターネットと社会のレジリエンス 阪神淡路大震災から30年を振り返って

IIJ.news Vol.186 February 2025

阪神淡路大震災から30年が経った今、
インターネットの“強さ”の秘訣と、
ネットワークを裏で支える技術者の存在にスポットを当ててみたい。

執筆者プロフィール

IIJ 非常勤顧問 株式会社パロンゴ監査役、その他ICT関連企業のアドバイザー等を兼務

浅羽 登志也

平日は主に企業経営支援、研修講師、執筆活動など。土日は米と野菜作り。

1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災から今年ではや30年です。テレビの特集番組をご覧になった方も多いでしょう。思えばあれが、日本のインターネットが体験した初めての大災害でした。あの日、震源地周辺では大地が激しく揺れ、家屋やビルが崩壊したり、高速道路の高架までが倒壊し、現地に住んでいた友人や家族の安否がわからなくなるという、筆者がそれまで生きてきたなかで体験したことがないような大災害でした。言葉では言い尽くせない混乱と悲しみが広がるなか、都市型地震としての甚大な被害を社会に突きつけると同時に、災害時の情報伝達やコミュニケーションの課題を浮き彫りにした事件だったとも言えるでしょう。

当時、インターネットはまだ黎明期にあり、一般家庭への普及率も低く、災害時の情報伝達手段としては固定電話やラジオが中心でした。しかし震災により、これらの通信手段が寸断され、情報の共有や被災地の状況把握が大きく遅れたことが問題となりました。

一方、昨年の元旦に発生した能登半島地震は記憶に新しく、現地ではいまだに復旧作業が続いています。インターネットによる情報共有の安定性は格段に向上しましたが、災害対応や復旧作業の遅れを見ていると、テクノロジーが進化した現在においても、地域特有の制約や物理的インフラの脆弱性により、災害対応がむずかしくなり得ることが示されています。

それらを補うべく、現場の連携や地域コミュニティのつながり、あるいは地域を越えた人的ネットワークが、行政やテクノロジーでは解決できない課題に対処するための重要な役割を果たしています。これは東日本大震災でも同様でした。今回の能登半島地震の復旧過程から改めて見えてきたのは、テクノロジーだけに依存せず、人間同士のつながりや地域固有の知識を活かすことの重要性かもしれません。

インターネットはなぜ災害に強いのか

インターネットは災害に強いネットワークと言われていますが、それはどうしてでしょう。その秘密は不思議なことに、分散型で自然発生的にできあがった「構造」にあります。インターネットは「スケールフリー」という構造を持っています。これは自然界にもよく見られる構造だと言われていますが、「新しいノードがネットワークにつながる時、すでにたくさんリンクを持っているノードにつながりやすい」といった一連のシンプルなルールによって成長していくネットワークによく見られる構造です。まさにインターネットはこのようにして世界中をつなぐ巨大ネットワークに成長してきたのです。

スケールフリー構造を持つネットワークは、一部のノードが破壊されてもネットワーク全体が崩壊しにくいという特性を持っています。これは「ハブ」と呼ばれる少数の大きなノードがネットワーク全体の接続性を保つ役割を担っているためです。このようなネットワークは、ランダムにノードを取り除いていっても全体がバラバラになりにくい性質、すなわち、不測の災害にも強い性質を持つことになります(逆にハブを狙った「攻撃」には弱いという弱点もあります)。このような性質を持っているため、災害時にある地域で通信が遮断されても、他のルートを通じて情報を伝達できるケースが多いわけです。

このスケールフリー性は、他の社会インフラにも見られます。電力供給網や物流ネットワークなどでも、複数のハブを地理的に離れた場所に作って、同様の性質を持たせているものが多いのではないかと思います。分散型でスケールフリーモデルを取り入れたネットワークを構築することで、災害時に一部の拠点が機能不全に陥っても、全体のシステムが維持されるレジリエンスを確保できますし、日常的な社会インフラの信頼性向上にも寄与できるのです。

インターネットのもう1つのレジリエンス

インターネットには、先述したネットワーク構造以外にもう1つ、「強さ」を生み出すためになくてはならない重要な「性質」があります。それはネットワークを運用している技術者たちの横のつながりの強さです。本連載の読者の皆さんならご存じの方も多いと思いますが、阪神淡路大震災後の1997年から毎年2回開催されているJANOG (JApan Network Operators’ Group)というネットワークオペレータの会議があリます。ここには異なる企業や地域で活躍しているネットワーク技術者が全国から結集し、それぞれの経験、知見、ノウハウなどを交換しながら、全体の技術力や運用力の向上を目指して切磋琢磨し、人的ネットワークを広げています。第55回のJANOGは今年1月に京都で開催され、全国から4000人を超える技術者が集いました。この技術者コミュニティが、現在おそらく1000社に届くであろう通信事業者が相互接続しているにもかかわらず、日本のインターネット全体があたかも1つのネットワークであるかの如く、日々、安定的に機能することを可能にしているのです。

JANOGは、もともとアメリカにある同様の会議体であるNANOG(North America Network Operators’ Group)に倣って作られました。また、このNANOGは、現在のインターネットの前身とも言えるNSFNETが全米各地域でつないでいた地域ネットワークのオペレータの集まりであるRegional-Techs Meetingから発展したものです。実は、筆者が1995年に始まったばかりのNANOGに参加しようとした時、最初は「これはNorth Americaの会だから」と断られたことがありました。しかし、すぐに世界中にオープンになり、翌年には参加できるようになりました。今や、こうした「○○NOG」といった集まりは世界中にあり、各地域・国内外のネットワーク技術者のつながりを支えています。

阪神淡路大震災から30年が経過し、私たちの社会は大きく進化しました。テクノロジーの力が新たな可能性をもたらす一方、それらを裏で支える人のつながりの力があって初めて、さまざまな課題を克服し、より強靭な社会を築くことが可能になります。

JANOGは、見方によっては技術者が定期的に集まってお祭り騒ぎをしているだけに見えるかもしれませんが、実際にはそんなことはありません! 部下の技術者が参加したいと言ってきたら、ぜひ「しっかり貢献してこい!」と笑顔で送り出してやってください。

AIの発展により「人間の仕事はなくなる」と言われることもありますが、筆者はどうしてもそれは信じられません。人間の知恵が生み出すテクノロジーと、それを安定して、しかも安全に動かし続ける人同士のつながりの力によって、私たちの未来は進化していくのだと思います。そのための「お祭り」は今の時代にも必要なのではないでしょうか。

ちなみに第56回のJANOGは、IIJがホストとなって、7月に島根県松江市で開催される予定です。ぜひこの機会に参加して、その熱気を感じてみてください。

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