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IIJ.news Vol.187 April 2025
人は“杓子定規”な対応をされると、ついイラッとしてしまう。
そんな思いをいくらかでも緩和してくれるのが
“運用”というものではないか。
今回は「標準化」の是非について考えてみたい。
IIJ 非常勤顧問 株式会社パロンゴ監査役、その他ICT関連企業のアドバイザー等を兼務
浅羽 登志也
平日は主に企業経営支援、研修講師、執筆活動など。土日は米と野菜作り。
近年は毎年1月か2月に人間ドックを受診するのが習慣になっています。以前は秋から年末くらいまでに受診していたのですが、面倒くさいので、少しずつ先延ばしになり、やがて年を越し、ついには2月にまでずれ込んでいるという、あまり感心できない状況です。それでもおおよそ毎年1回受診しているのは偉い! と自分を褒めてあげたい気持ちです。受診する場所は、車で30分ほどかかる佐久市の総合病院なのですが、今年は2月中旬に受診しました。血液検査などすぐに結果が出る範囲では特に異常もなく、ホッとしています。
ところで筆者は、人間ドックでは胃の検査は受けていません。バリウムを飲みたくないので内視鏡を選ぶようにしているのですが、この内視鏡が曲者で、先生の腕によっては拷問になり得ることを10年ほど前に経験したことがあります。その時は大腸の内視鏡検査を近所の病院で受けたのですが、専門医がいないということで、外科の先生が担当してくれました。町営の病院なので大丈夫だろうと思った自分が愚かでした。それはもう筆舌に尽くしがたい痛みが延々と続き、先生も慣れない内視鏡の操作に悪戦苦闘されていたのはわかるのですが、「先生、がんばれ!」という気持ちはすぐさま吹っ飛び、ただ「痛え、痛え」と叫び続ける阿鼻叫喚状態。あれがもう少し続いていたら、筆者のささやかな人間性が崩壊していたのではないかと思える体験でした。それ以降は、信州大学病院で何年も内視鏡の検査を担当し、トータル5000件を超える実績を持つことを売りにしている先生の内科・消化器科クリニックをネットで見つけ、そこに行くようにしています。
この先生は本当に巧いし、何より速い(時間が短い)のが嬉しい。しかも半日で大腸と胃の両方を診てもらえるので、タイパも最高なのです。ただ1つ困ったことがありました。大腸の内視鏡を受ける時は、感染症に罹っていないことを確認するために、事前に診察を受けないといけません。筆者は、胃は毎年、大腸は3年に1回、内視鏡検査を受けることにしているのですが、昨年は3年に一度の両方検査する年でした。そこで、このクリニックが人間ドックを受ける総合病院から近いこともあって、ドックを受診したあと、内視鏡の予約と診察を受けにクリニックに寄ったのです。
人間ドックと同じ日に行くのは初めてだったのですが、診察後、血液検査のために採血をするというではないですか! 「いやいや、待ってください、ほんの3時間前に総合病院で血液検査して、異常なしでしたよ。それなのにまた採血ですか?」と看護婦さんに言っても、「すみませんね、はい腕を出して〜」と聞く耳を持ってくれません。こんな罠があったのかと、渋々、先ほどとは違うほうの腕を出して血を捧げたのですが、なんとも釈然としません。なぜ、総合病院のデータ(しかも、そのデータは私のものでしょ?)を使えないのだ! と怒りが沸々と湧いてきました。
こういう時こそChat君だ! と思い、さっそく聞いてみると、日本では医療機関ごとに電子カルテシステムが異なり、データの互換性がないため、採血データを他の医療機関と共有できない。したがって、同じ日に複数の医療機関で採血が必要になるケースも少なくない、という答えが返ってきました。さらに、個人情報保護の観点からも慎重な運用が求められており、全国的な統一システムの導入は進んでいない、と。ただし、マイナンバーカードを活用した医療データの一元化は試みられており、今後の改善が期待される、のだそうです。今度、ぜひ、担当者を連れて、「IIJ電子@連絡帳サービス」*の営業に行きたいと思います。この電子連絡帳は地域医療・介護の情報連携を実現するためのサービスですが、これからは医療だけでなく、企業や行政などの垣根を越えた、さまざまな領域における情報連携が重要になってくるでしょう。
ちなみに海外では電子健康記録(EHR:Electronic Health Record)を活用して医療機関間でデータを共有できる国もあり、例えばエストニアやイギリスでは、全国的な電子カルテシステムが整備され、患者の診療情報を簡単に共有できるそうです。なんでも海外に倣うのがいいとは思いませんが、同じことが日本でできるようになれば、とても便利です。ヨーロッパの人々はこういうものはすぐに国際標準化に動き始めますから、これがメジャーになれば、日本はこの分野でも乗り遅れてしまう可能性もあるのではないでしょうか。
実は、昨年の「1日2回採血事件」で判明したことがもう1つあります。同じ日に数時間間隔で採った採血の結果を比べると、もちろんまったく同じ数値ではなく、少し差があるにはあるのですが、よく見ると、人間ドックの検査結果には、正常値からわずかに外れてチェックがついている項目がいくつかあるではありませんか! 筆者はお酒が好きなので、ガンマGTPの値が気になるのですが、総合病院の検査結果では正常判定だったのに、そのすぐあとに採血したクリニックの結果では、わずかに異常と判定されていたのです。採血した時間が少し違うだけで、正常値から外れてしまうことがあるのか? と、もう一度よーく見てみると、ガンマGTPの値は同じなのに、なんと2つの検査結果票に書かれている正常範囲の値が異なっているのです! 受診する医療機関によって正常値が違う、しかも同じ市内なのに……びっくり仰天です。
なぜ、そんなことになるの? と、ネットで調べてみると、こんな説明がありました。「検査の手法や使用する試薬は医療施設によって異なることがあり、検査結果にばらつきは出る。検査の標準化を進め、同じ結果を得られるよう改善されつつあるが、標準化を進めても、検査の手法や使用する薬品などが国単位で統一されていないため、いまだにばらつきが出てしまうのが現状である」と。
国際標準どころか国内標準すら確立されていないようです。どうしてこんなことになっているのでしょうか? いや待てよ、逆に正常範囲というものを標準化する意味はあるのでしょうか? 突き詰めて考えていくと、そもそも正常とはなんでしょう? 杓子定規に標準化するのが本当に良いことなのでしょうか? 性別や年齢、身体の特徴や住んでいる場所によって、傾向は変わるかもしれないわけで、多少のバラツキがあるほうがむしろ正常と言えるのではないでしょうか? 特に人間に関してなんらかの評価を行なうための指標であればなおさらです。
闇雲に標準化したりせず、バラツキがあるまま放置している日本の在り方にも一理ありそうです。ちょっとホッとした気分になりました。というわけで、今後は少なくともガンマGTPに関しては、総合病院の血液検査結果を信じることにします。え? 何か違う? いえいえ、そんなはずはありません!
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