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インターネット・トリビア 移動中の通信はむずかしい

IIJ.news Vol.187 April 2025

執筆者プロフィール

IIJ 広報部 技術担当部長

堂前 清隆

IIJの技術広報担当として、技術Blogの執筆・YouTube動画の作成・講演活動などを行っています。これまでWebサイト・ケータイサイトの開発、コンテナ型データセンターの研究、スマホ・モバイル技術の調査などをやってきました。ネットワークやセキュリティを含め、インターネット全般の話題を取り扱っています。

通信というと、家庭用の「ひかりインターネット」のように特定の場所で利用する「固定通信」と、携帯電話やスマートフォンのような「移動体通信」があります。移動体通信は概ね電波を使いますが、その方法には2種類あり、トランシーバーのように通話する相手同士が直接電波を送受信する場合と、携帯電話のように移動する端末が発する電波を基地局とのあいだで送受信する場合があります。今回は、携帯電話のような移動体通信を例に、基地局と端末の関係を考えてみます。

基地局を使うタイプの移動体通信で、まず気になるのは「エリア」でしょう。基地局の電波が届かないところでは通信はできません。通信エリアを広げるためのもっとも単純な方法は「強い電波」を使うことです。例えば、埼玉県にあるNHKラジオ第2放送の送信所では500kWという強い電波を出しており、関東甲信越一帯はもちろん、福島県や愛知県の一部にまで電波が届いています。これだけの範囲に電波が届けば、移動しながらの通信にも実用上の支障はないように思われます。

ですが、携帯電話で強い電波を出す方法には2つの問題があります。1つは電力消費です。携帯電話ではラジオ放送と違い、携帯電話端末からも電波を送信しています。基地局から電波が届いていても、端末からの電波が基地局に届かなければ通信は成立しないのです。しかし、携帯電話はバッテリーで動作しているので、強い電波を出すと電力が不足します。よって、最近の携帯電話が使う電波は数100mW以下に抑えられています。

また、電波を強くすると、1つの基地局の電波が“届きすぎる”ことも問題になります。放送では受信者全員が同じ情報を受け取りますが、携帯電話では一人一人が異なる情報を送受信するため、基地局とのあいだで交わされる電波に複数の異なる情報を載せる「多重化」という技術が用いられています。ところが、一定の電波を多重化して同時に通信できる利用者の数には限りがある、つまり、1つの基地局を同時に利用できる端末数には上限があります。基地局からの電波が遠くまで届いてしまうと、広いエリアにおいて同時利用者数が制限されてしまいます。携帯電話のように通信の需要が非常に大きい場合、これはいただけません。

そこで、基地局を利用するタイプの移動体通信では、電波があまり強くない、小さなエリアを持つ基地局を多数設置し、各基地局のエリアをパッチワークのようにつなぎ合わせて大きなエリアを構成する方式がとられています。この小さなエリアを「セル」と言い、セルを組み合わせてエリアを構成する通信方式を「セルラー方式」と言います。

ところがこのセルラー方式にもむずかしい点があります。移動中の通信端末がセルの“端”に到達した時、どうするのか?という問題です。一番シンプルな解決策は、一度通信を切断して、隣りのセルで再度接続し直す方法ですが、これだと音声が途切れるなど、使い勝手が悪くなります。そこで、通話中でも違和感がないように、隣りのセルにスムーズに通信を切り替える制御が行なわれており、これを「ハンドオーバー」と呼んでいます。ハンドオーバーでは端末・利用中の基地局・切り替え予定の基地局・ネットワーク全体を管理する装置が相互連携して、基地局を変更しています。

こうした処理を行なうため、ハンドオーバーはかなり複雑な処理になっています。徒歩のような低速な移動であれば容易にハンドオーバーできるのに、自動車など高速移動の際には失敗するといったことも起こり得ます。加えて、携帯電話では高い通信需要に対応するために、セルが小さくなる傾向があり、ハンドオーバーの難度はさらに上がっています。

普段なんとなく利用している移動体通信の裏では、実は大変なことが行なわれているのです。

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