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IIJ.news Vol.174 February 2023
目下、多くの企業が取り組んでいるデジタル化・IT化の総称である“DX”(デジタルトランスフォーメーション)。
本稿では、DXを主導する「DX推進部」の役割・機能・人材選定などについて解説する。
IIJ プロフェッショナルサービス第一本部コンサルティング部
プリンシパルコンサルタント
中津 智史
「事業にデジタルを上手く取り入れることで業務やサービスを革新したい」――DXに取り組む企業の責任者の方々は、共通してこのような目標をお持ちです。その目標達成のため、“経営/事業/IT”の3領域のつなぎ役として革新を推進する専門部署が、いわゆる「DX推進部」です。
各社のDX推進部が担う取り組みは、業務プロセスの一部自動化から、従来はできなかった組織の役割・体制の革新をデジタル技術により実現することまで多岐にわたります。さまざまな取り組みのなかにあって、DXが目指す構想を育み、取り組みを継続していくうえで、下記の3つがキーファクターになることがわかってきました。
これらのキーファクターが網羅されていないと、革新をともなわない小粒な取り組みとなり、「先進技術の実験場」といった不名誉な評価を受け、結果的に期待に応えることができなくなります。
そこで、DX推進部に必要となるのが「ビジネスアーキテクト」と呼ばれる人材です。昨年末、経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構が公開した『デジタルスキル標準』では、この「ビジネスアーキテクト」という人材類型が定義され、先に示したキーファクターへの取り組みを主導するキーパーソンとして示されています。
ビジネスアーキテクト(新規事業開発)
新しい事業、製品・サービスの目的を見出し、新しく定義した目的の実現方法を策定したうえで、関係者をコーディネートし関係者間の協働関係の構築をリードしながら、目的実現に向けたプロセスの一貫した推進を通じて、目的を実現する
ここまでは、DXに取り組む企業が共通して持ち、主領域として取り組む「企画」について述べてきました。一方、事業革新の検討が進み、各種評価により「事業を革新するに値する」と判断されると、次の2つの取り組みが必要となります。
これは、取り組みを担う組織や業務、システムの設計・開発を進めることを意味します。従来、DX推進部が取り組む主領域であった「企画」に加え、新たに事業の革新を浸透・継続させていく「展開」という役割が付加されます。そして、この役割に必要な知見を持っているのは、実はITサービス事業者でした。それは、彼らが普段行なっている「ITサービスマネジメント」として定義されている業務そのものであり、ITIL*というベストプラクティスとしてまとめられるほどに体系立てられ、整理されています。
デジタル化された新たな事業環境の構築事例に、我々がDXパートナーとして大和ハウス工業と実現した事業革新が挙げられます。このプロジェクトでは、ITサービス事業者として培ったIIJの知見を活かし、事業革新に必要となる製品開発から、組織/業務/システムの設計・開発までを支援することで、新たなデジタル業務環境を早期に実現し、運営・運用を軌道に乗せることに成功しました。
デジタル業務環境を革新する過程では、軌道に乗せるまでの「組織/業務/システムの設計・開発」と、軌道に乗ったあとの「運営・運用」の双方の役割に対する担い手が不可欠であり、その役割をDX推進部が担うのか、既存あるいは新規の別組織に任せるのか、判断する必要があります。
*ITIL: Information Technology Infrastructure Library
DXに取り組む際、どのようなマインドとスタンスを持っている人材が活躍しているのか、実際のDXプロジェクトにおいて分析したところ、取り組むフェーズに応じて活躍する人材の特性に傾向があることがわかりました。また、この特性を持った人材は、マーケティングの世界で提唱される「イノベーター理論」に近似していると見られるデータも出ています。このデータについては調査・研究中ですが、概ね、取り組みの段階に応じて適した人材を見つけることの難易度を表していると考えています。(図1)
デジタルを用いた事業革新の取り組みでもっとも重要なのは「人材」、すなわち、DXを推進する組織に適切なマインドとスタンスを持つ人材をアサインすることです。さらに、取り組みに必要なスキルをその人材に教育することがDX推進のカギとなります。
これらが重要であるということは、先に触れた「ビジネスアーキテクト」がDX推進部に必要な人材であることや、取り組みの段階に応じて役割が変化し、そこで活躍する人材の特性には一定の傾向があることからもうかがい知れます。
これからの取り組みにおいては、取り組みの段階・役割に応じた適性を持つ人材の選定、その役割に必要なスキルの教育、そして、実践で生きるフレームワークを活用しながらDXを通して構想を育て、取り組みを継続していくことなどが有効と言えます。(図2・3)
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