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IIJ.news Vol.174 February 2023
本稿では、今、話題の「中央銀行デジタル通貨(CBDC)」の国際動向を俯瞰したうえで、日本で進められている取り組みについて紹介する。
株式会社ディーカレットホールディングス 執行役員
高橋 英之
最近、ニュースでたびたび目にする「中央銀行デジタル通貨」(以下、CBDC : Central Bank Digital Currency)は、今、世界各国で検討や実験が行なわれており、その動向が注目されています。そもそもCBDCとは「①デジタル化されている」、「②円などの法定通貨建てである」、「③中央銀行の債務として発行される」――これら3つの条件を満たした通貨を指します。
まれにビットコインなどの暗号資産と誤解されることがありますが、暗号資産のように価格が不安定なものではありません。また、駅の改札やコンビニでの支払いで利用する電子マネーとも似ていますが、これは中央銀行の債務で発行されていません。プリペイド式電子マネーの場合、事前にチャージすると現金への払戻しは原則不可で、現金の代わりとして利用できるため「デジタル化された法定通貨の代替品」とも言われています。電子マネーの種類によっては個人間送金ができないといった制限がありますが、CBDCが発行されると買い物の支払いや、飲み会の割り勘、家族への仕送りもデジタルで完結できると想定されます。
2020年10月、世界で初めてCBDCを発行したカリブ海のバハマでは、CBDCにより国民の金融サービスへのアクセスが改善されました。700以上の島からなるバハマは、銀行がない島もあり、現金の移動が困難で、輸送コストが高いといった問題を抱えていました。また、ハリケーンなどの自然災害により、銀行窓口の被災や現金輸送が一時的にできなくなる事態に陥るリスクもあります。CBDCの導入により、輸送コストが抑えられる以外にも、通貨がデジタル化されることでどの島民でも平等に金融サービスが受けられる環境が整備されました。
昨年、冬季オリンピックが開催された北京でもCBDCの実証実験が行なわれ、パイロット版アプリをダウンロードすると、オリンピック・パラリンピック会場でCBDC払いができました。中国では2014年からCBDCの研究チームが発足し、世界に先駆けて研究に着手していました。広東省、四川省など実証実験の対象地域が徐々に拡大されており、最近では香港、タイ、アラブ首長国連邦とともに国際間取引を検討する多国間プロジェクトが進められています。
アメリカでは2022年に入ってから連邦準備制度理事会(FRB)によるCBDCに関する報告書の発表や、バイデン大統領がデジタル資産の研究開発促進の大統領令に署名するなど、政府としてもCBDCを重視する動きが見られます。大統領令を受け、関係省庁でワーキンググループが発足し、今後は情報共有や研究の進捗状況が定期的に報告される体制が構築されました。
日本では日本銀行がCBDCに関する実証実験を2021年から行なっています。同年4月に基本性能を検証するフェーズ1が開始され、2022年4月からはCBDCの周辺機能を付加して検証をするフェーズ2が始まっています。さらに必要なら2023年以降、民間事業者や消費者が参加するパイロット実験を行なうとも発表しています。ただし日本銀行は、現時点でCBDCを発行する予定はなく、さまざまな環境変化に対応できるよう準備しておくことが重要だというスタンスを示しています。
日本では民間企業においてもデジタル通貨発行の動きがあり、それがディーカレットDCPが事務局を務めるデジタル通貨フォーラムです。日本銀行が発行するCBDCとは異なり、民間銀行が発行し、まずは企業間決済での利用を想定したデジタル通貨の開発を目指しています。CBDCが発行された場合でも共存できるスキームで検討しており、幅広い業種の企業でご利用いただけるよう実現に向けて取り組んでいます。
現在、当社ではデジタル通貨DCJPY(仮称)の発行に向けた準備を着々と進めています。皆さまにDCJPYを提供し、日本経済のデジタル化と発展に寄与したいと考えています。
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