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IIJ.news Vol.174 February 2023
3年あまりのコロナ禍を経て、社会はようやく旧に復しつつある。
そして今、医療および健康に関わるICTは、どんなことを期待され、今後、どのように発展していくのだろうか?
IIJ 公共システム事業部 ヘルスケア事業推進部長
喜多 剛志
2019年から始まった新型コロナウイルス感染症の影響はまだ残っていますが、人々の生活は次第に日常に戻ろうとしています。しかし、医療・介護施設は感染症対策を維持しており、医療・介護従事者の負担は継続しています。
他方、平和的協調を保っていた世界情勢は一変し、急速に複雑化しています。同様に、国内の社会保障全体も構造改革が求められるフェーズに入っています。
「デジタル庁」に続き、2023年から「こども家庭庁」が立ち上がります。この2つの新設組織の共通テーマは“横断課題への対応”です。役割が異なっていた、いわゆる縦割りと呼ばれる体制下では迅速な対応がむずかしかった課題解決や目標達成が期待されています。
すでに2022年から施行されている取り組みに「重層的支援体制整備事業」があります。聞き慣れない方も多いと思いますが、「ヤングケアラー問題」がその一例として挙げられます。子どもが親の介護などで学校に行けなくなり、教育機会を失っているという問題です。この課題に関しては、学校任せ・病院任せでは解決はむずかしく、学校・医療・福祉を含む総合的なアプローチが不可欠です。そこでは、複数の役割を持つ組織が、共通課題に一体となって取り組める組織づくり・情報連携が求められます。政策上では、「多機関協働」と呼ばれる仕組みをつくり、複数の組織を横断した、迅速かつ安全な連携の仕組みが必要になっており、これこそICTに期待されている役割だと考えています。
IIJが提供する医療・介護・福祉・行政など、地域の暮らしを支える専門職をつなぐ多職種連携プラットフォーム「IIJ電子@連絡帳サービス」も、こうした課題解決に向けて、各導入地域において事業化され始めています。
一方、医療の先進技術は、より“個別化・精密化”する方向に進んでいます。コロナ禍においてmRNAを活用したワクチンが一気に普及しましたが、ここで基礎をなしているゲノム情報を活用した医療は、今後も伸びていくと言われています。これにより、個人に紐づく情報も膨大になると同時に、それを支えるICTへの期待値も高まっています。従来の対処療法から根本治療への道も開けてくると見られており、医療に関する情報は、今後も多様化・拡大していくでしょう。
医療への期待が「最先端の治療を受ける」ということに留まらず、「“人生100年時代”をどのように健康で暮らしていくのか」、「社会に貢献する活動をいかに伸長させていくのか」といったところにまで広がっています。
また、「複雑化する社会や突発的な自然災害に、地域でどう対応していくのか」といった課題は、社会の枠組み自体から考え直していく必要があります。これらに有益な制度や組織は今後も強化されていくでしょうが、それを実行する行政と医療・介護・福祉の専門職の働き方を変えていくことが、ICTに期待されている役割であると同時に、データ連携の価値を発揮できる領域であると捉えています。
コロナ禍を経験したことで、今までなかなか進まなかった領域のICT活用が広がり始めました。バイタルデータや検査結果、医療や介護の情報をつなぐだけでなく、今後はデータの活用やユースケースの議論も重要になってきます。先端医療や複雑化する地域課題に対しては、幅広い専門職の力を合わせることが欠かせないためです。
今、高度な専門職が連携するチーム医療、地域の見守りや予防施策を行なう支援の輪、災害時・救急搬送時の支援……等々、1人の専門職に多くの役割が求められています。日々、新しい技術やデータが生み出されるなか、専門職がより安心して活躍でき、働きやすい体験(UX)を提供・実現することが我々の使命だと考えています。
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